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松江地方裁判所 平成11年(ワ)144号 判決 2000年11月27日

原告

野津延夫

右訴訟代理人弁護士

野島幹郎

被告

伊藤忠燃料株式会社

右代表者代表取締役

松村秀雄

右代理人支配人

山西正氣

右訴訟代理人弁護士

加藤寛

久保豊年

大名浩

主文

一  被告は、原告に対し、二三〇九万五九四七円及びこれに対する平成一一年九月二五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、被告の負担とする。

四  この判決は第一、第三項に限り仮に執行することができる。ただし、被告が一七〇〇万円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。

事実及び理由

第一  請求

被告は、原告に対し、二三〇九万五九四七円及びこれに対する平成一一年八月二八日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  前提となる事実関係

1  原告は、もと別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を所有していた(争いがない。)。

2(一)  松江市は、昭和四九年三月、松江圏都市計画(松江国際文化観光都市建設計画)事業北部土地区画整理事業の計画を立てたが、右事業計画の範囲内に本件土地が含まれていた(甲五、一〇、一一、乙一、原告本人)。関係地区は、対策協議会を設立し、各地権者の換地先、減歩、清算金等につき、協議した結果、換地で得る土地の面積、失う土地の面積の過不足などを点数で計算して清算指数を出し(プラスになれば清算金納付義務を負い、マイナスになれば清算金を受領することになる。)、それぞれの清算金を決定するに際し、各人各筆合計して同一地権者の清算金をなるべくゼロに近づけるように努力するとの松江市の説明に対して、基本的に了解した(甲八の1、2、九の1、2、一〇、一一、原告本人)。

(二)  松江市は、昭和五二年一二月二八日、原告を含む南工区の各地権者に対して、それぞれの土地につき、仮換地先、仮換地面積、それぞれの清算点数を提示し、南工区の地権者全員(約三〇名)は、昭和五三年四月二七日、右提示を受け入れた(甲八の1、2、九の1、2、一〇、原告本人)。

(三)  原告が松江市の担当職員から渡された書面(甲八の1、2)には、本件土地の清算指数がマイナス928.536とされ、原告所有の他の四筆の土地の清算点数を差し引きするとプラス47.019となり清算金納付義務を負担しなければならない結果であった。原告が、平成一一年一一月一九日に右書面の再交付を求めたところ、同書面(甲九の1、2)には、本件土地の清算指数はマイナス1072.010で、他の四筆の土地の清算点数を差し引きするとマイナス143.474と修正され、清算金を取得できる結果となっていた。

3(一)  原告は、昭和六三年一二月九日、本件土地を有限会社ダイユウ不動産(以下「ダイユウ不動産」という。)に対し、代金七九九〇万円(坪三八万円の単価)で売却した(甲二、三、一六、証人大谷重雄、原告本人)。

(二)  ダイユウ不動産は、平成元年五月二九日、本件土地を被告に対し、坪単価五三万円として売買価格を決定した上で売却した。なお、被告は、右売買契約において、「清算金は被告に属する」との特約を結んでいた(甲四、一六、証人大谷重雄、同小田原将晴)。

4  松江市は、本件土地の登記簿上の名義人となっていた被告に対し、平成一〇年八月二六日、本件土地の換地処分の通知をし、右通知において、本件土地の清算金の交付額を二三〇九万五九四七円としていた(乙一)。松江市は、平成一一年八月二七日、原告の抗議にも関わらず、本件土地の清算金二三〇九万五九四七円を被告に交付した(争いがない)。

二  争点及び争点に関する当事者の主張

争点は、本件土地の清算金が、原告に帰属するのか、被告に帰属するのかである。

(原告の主張)

土地区画整理中の土地の売買契約において、当事者が換地予定地を売買の目的として代金を定め、換地清算金について何らの特約もしなかった場合、その後、予定どおり、換地がなされたときは、清算金は売主に帰属するものと解すべきである。

原告は、ダイユウ不動産に対し、坪当たり約三八万円で取引することとして、本件土地の売買代金を七九九〇万円としているが、逆算して売買対象面積を求めると210.29坪(695.18平方メートル)になり、換地後の登記面積694.63平方メートルと近似する。さらに、ダイユウ不動産は、被告に対し、坪当たり五三万円として総額二億一四六四万四〇〇〇円で本件土地を含む土地を売却しているが、同じようにして逆算して売対象面積を求めると、約404.99坪になる。右面積は、元久保田忠太郎所有の土地194.70坪と本件土地210.29坪を合算したものに等しい。これらのことからすると、いずれの取引においても、本件土地は、換地後の面積を基準にして売買されており、換地清算金を考慮していないことになる。

そうすると、松江市が被告に支払った前記清算金については、右各当事者間において、特約がなかったといえるから、原則どおり原告に帰属するものであったのであり、前記清算金を取得した被告は不当に利得していることになる。

(被告の主張)

1 換地(公告)後の土地の売買の場合について、清算金の権利義務(交付金、徴収金)は、換地と同時に発生するのであるから、売買によって当然付随的に移転するものではなく、清算金は売主に帰属すると解されている。右の反対解釈として、換地前の土地(仮換地)の売買については、清算金は売買に付随的に移転し、買主に帰属すると判断するのが相当である。

2 仮に、換地前の土地(仮換地)の売買について、清算金の権利義務が当然に買主に移転しないとしても、当事者間で清算金の権利義務についての合意があれば、その合意に従うことになる。

本件の場合、ダイユウ不動産と被告との間では清算金の権利義務は移転する旨合意しているが、原告とダイユウ不動産の売買契約では清算金について合意がない。合意がない場合、仮に清算金の権利義務が移転していないと解釈されるとしても、被告は右契約について何らの関与もしておらず、善意である。また清算金の権利義務の移転の有無について、何らの公信制度がない以上、被告としては自ら関与していない原告とダイユウ不動産の売買契約の契約内容により、清算金の権利義務の帰趨が定められる合理的な根拠はない。すなわち、原告とダイユウ不動産の間では、清算金の権利義務が移転せず、ダイユウ不動産と被告との間では清算金の権利義務は移転したものと相対的に解釈すべきである。

3 いずれにしても、原告の請求は失当である。

第三  争点に対する判断

一  事実認定

証拠(甲一ないし五、一〇ないし一三、一五、一六、乙一、証人野々村昌幸、同山田登、同小田原将晴、同大谷重雄、原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。

1  被告は、前記土地区画整理事業の仮換地指定が終わった後、ガソリンスタンド用地としての土地を購入することを希望し、ダイユウ不動産が原告所有の本件土地及びその隣接の久保田宏所有の土地を購入した上で、被告に売却することとなった。

2  原告は、昭和六三年一二月九日、本件土地を七九九〇万円(坪当たり三八万円)でダイユウ不動産に売却した。右売買契約書(甲三)の売買物件の表示は

「所在 松江市西川津町

地番 <略>

地目 田

地積 一二七七平方メートル

上記土地仮換地 三一街区<略>

695.18平方メートル(210.29坪)」

となっている。

また、右売買契約書には、本件土地の換地処分により清算金の徴収又は交付が行われる場合の特約は記載されていない。さらに、原告とダイユウ不動産の間においては、右の清算金の徴収又は交付についての話し合いは行われなかった。

3  ダイユウ不動産は、本件土地付近が土壌の悪い土地であったことから、本件土地を購入した上、擁壁工事と土地改良工事を行い、松江市に本件土地及び隣接の土地についての仮換地指定地に杭を打ってもらい境界を確定した。

4  ダイユウ不動産は、右工事が完了したことから、被告に本件土地を売却することとし、平成元年二月二九日、本件土地及びその隣接土地を被告に売却する旨の売買契約書(甲四)を交わした。売買代金を坪当たり五三万円とし、本件土地及び隣接土地をあわせた総額は二億一四六四万四〇〇〇円となった。売買物件である本件土地の表示は

土地登記簿上の表示として

「所在 松江市西川津町字葭島

地番 一五二五―九

地目 田

地積 一二七七平方メートル」

仮換地指定通知書の表示として

「街区番号 三一

仮換地番号 三

地積 六九五平方メートル」

となっている。

被告は、右売買が仮換地の売買であったことから、本件土地が換地処分された場合に清算金の徴収又は交付が行われる場合には、すべて被告に帰属する旨の特約(甲四の売買契約書九条二項)を付することとし、その旨売買契約書に明記された。ただ、ダイユウ不動産は、右清算金の主旨を仮換地から換地になった際の地積の増減に伴って徴収又は交付される微調整的なものと理解していたにすぎなかった。

5  本件土地の換地処分の通知がなされ、清算金が支払われる段階になったところ、松江市が被告に右清算金を支払おうとしたことから、原告は、松江市と被告を相手方として清算金二三〇九万五九四七円を申立人である原告に支払うように松江簡易裁判所に平成一一年五月一八日付けで民事調停の申立てをした。松江市は、換地処分の時点の所有者に清算金が帰属するとの考えから、原告の右調停の申立てを拒否した。

二  判断

右によれば、原告とダイユウ不動産との間での本件土地の売買代金総額が七九九〇万円で坪当たり三八万円として取り引きしていることからみると、本件土地の売買の対象とした面積は、210.26坪(=79,900,000÷380,000)となり、本件土地の仮換地の面積210.29坪とほぼ等しいこと、売買契約書には清算金の徴収又は交付についての特約条項がないこと、ダイユウ不動産の代表者は本件土地の仮換地後の面積を基準に売買契約を締結したもので、その当時本件土地に関して清算点数があることを知らなかったと証言していること(証人大谷重雄)からすると、原告とダイユウ不動産との間の売買契約においては、本件土地の清算金についての特約はなかったものといえる。

そして、本件土地は、前記認定のとおり、換地として認可されたものであり、このような場合には、売買契約の当事者間においては、本件土地の清算金の徴収又は交付についての権利義務の帰属は、売主である原告に帰属すると解するのが相当である(最高裁判所昭和三五年(オ)第六一三号同三七年一二月二六日判決民集一六巻一二号二五四四頁参照)。そうすると、本件土地の清算金は売主である原告に帰属していることになる。

被告は、換地後の土地の売買の場合、清算金の権利義務(交付金、徴収金)は、換地と同時に発生するから清算金は売主に帰属すると解されている反対解釈として、換地前の土地である仮換地の売買については、清算金は売買に付随的に移転し、買主に帰属すると判断するのが相当である旨主張する。しかし、仮換地自体を売買の目的として代金額を定め、換地清算金の徴収又は交付についてなんらの特約がない以上、清算金の徴収又は交付についての権利義務を売主に帰属させることが、当事者の意思に合致し公平といえるから、被告の右主張は採用しない。

さらに、被告は、原告とダイユウ不動産との間では、清算金の徴収又は交付の権利義務が移転せず、ダイユウ不動産と被告との間では清算金の徴収又は交付の権利義務が移転したものと相対的に解釈すべきである旨主張する。しかし、本件土地が原告からダイユウ不動産に売却されながら清算金の徴収又は交付の権利義務が移転していない以上、ダイユウ不動産は本件土地の清算金の徴収又は交付の権利義務を取得していないことは明らかであるから、ダイユウ不動産からさらに被告に転売されたような場合に、被告が本件土地の清算金の徴収又は交付の権利義務を取得しないのは明らかであり、被告主張のように権利義務の移転が相対的になされていると解する法律上の根拠はなく、被告の右主張も採用しない。

第四  まとめ

被告は、本件土地の清算金を換地処分により取得しているが、これは、右換地処分が、土地区画整理法一二九条により施行者である松江市との関係では、本件土地の譲受人である被告に清算金の徴収又は交付の権利義務の関係が当然に移転した結果なされたことに基づくものであると解される。そうすれば、被告の本件土地の右清算金の取得は、法律上の原因があるようにも考えられる。しかし、土地区画整理法一二九条は、施行者と土地の権利者間の関係において土地区画整理事業を円滑明確に施行させることを目的として規定されたものであるから、本件のような売買契約の当事者である原告、ダイユウ不動産及び被告の実体法上の権利関係まで規律したものとは解されない。そうすると、本件土地の清算金は、先にみたように、本件土地の売買契約者間においては、原告に帰属しているものであるから、被告が本件土地の清算金を取得するのは、原告に対する関係においては、法律上の原因がないというべきである。

以上からすると、被告は、二三〇九万五九四七円を不当に利得していることになる。そして、不当利得金返還債務は、期限の定めのない債務であり、履行の請求を受けた日の翌日から遅滞を生じるところ、本件において遅滞を生じるのは、被告に対する訴状送達の日の翌日である平成一一年九月二五日ということになる。

したがって、被告は、原告に対し、不当利得金二三〇九万五九四七円及びこれに対する平成一一年九月二五日から支払済みまで年五分の割合による遅滞損害金を支払うべきである。

第五  結論

よって、原告の本訴請求は右の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官・横山光雄)

別紙物件目録<省略>

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